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福山型先天性筋ジストロフィーとは

どうして「福山型」というの?

1960年に、福山幸夫先生(東京女子医大小児科名誉教授)によって最初に報告されたので、そのお名前を取って名付けられました。
このホームページ上では、病気の名前が少し長いので、「福山型」と書きます。そして、福山型の息子たち、娘たちを、愛情をこめて、「ふくやまっこ」と呼んでいます。

この病気の原因は?

私たちの体の中には、いろいろな組織を作るための設計図(=遺伝子情報)があります。福山型は、設計図内のたんぱく質を作るための情報のところに、余計な情報が書き込みされていて、本来作りたいたんぱく質より少し長い物質(役目を果たせない物質)を作ってしまうという病気です。

つまり、フクチンという遺伝子に変異が起きたために正常のフクチン蛋白が作られないという病気ということです。ほとんどの福山型の患者さんでは「レトロトランスポゾン」という歩く遺伝子がフクチン遺伝子の中に入り込んでいます。この変異の場合は、スプライシング異常という「遺伝子の切り取り異常」がおきてしまい、正常なたんぱく質が作られなくなることが知られています。

遺伝子の説明

筋細胞は、基底膜と細胞膜という2枚の膜からなっています。
基底膜と細胞膜がずれないようにボルトのようなもので、2枚の膜は固定されています。

そのボルトのようなものは、いくつかの蛋白から出来ていて、αジストログリカンという蛋白も含まれています。 このαジストログリカンには糖で出来ている鎖(糖鎖)がついていて、ボルトを強くしています。

フクチンはこの糖鎖をつくる役割をしています。フクチン遺伝子に変異が起きて正常なフクチン蛋白が作られないと、糖鎖の状態が不安定となり、筋どうしの連結が悪くなるため筋が壊れ、筋ジストロフィーを発症すると考えられています。

つまり、筋肉の膜と膜を固定するボルトのようなもののパーツをつくるのがフクチンで、ふくやまっこのフクチンは不完全なため膜と膜の固定がもろく、筋肉が壊れてしまうのです。

ちなみに、この「レトロトランスポゾンの挿入型の変異」は、はるか昔、100世代くらい前、弥生時代の一人の祖先(仮に、「弥生フクさん」とします)の中に起きた遺伝子の突然変異が、子孫に伝わったものと計算されているそうです。

 

●遺伝の仕組み

この病気は遺伝することが知られています。筋ジストロフィーで一番多いデュシェンヌ型が男の子の病気なので、筋ジストロフィー=男の子の病気、と誤解されがちですが、福山型は男の子にも、女の子にも、発症します。

現在の日本人の中にはフクさんの子孫がたくさんいて、約90人に1人、フクさんと同じレトロトランスポゾン挿入型の変異を持っているそうです。

ただし、フクさんの子孫が全員福山型というわけではありません。体を作る設計図である遺伝子は両親それぞれから1つずつもらうため、2つもっています。仮に1つにフクさんのフクチン遺伝子(レトロトランスポゾン挿入型変異)を持っていても、もう1つの遺伝子が正しい設計図であれば福山型にはならず、保因者となり病気は発症しません。

遺伝図

一方両親からそれぞれ一つずつ、この変異をうけついで、両方の遺伝子に変異があるときに、福山型を発症します。このように、「二つともの遺伝子に変異があるときに発症する」遺伝形式を「常染色体劣性遺伝」と呼びます。

 

●遺伝のパターン

①ホモ型(レトロトランスポゾン挿入変異のホモ接合)

ホモ型の遺伝子パターン style=

お父さんお母さん両方とも弥生フクさんの子孫で、それぞれが1つのフクチン遺伝子に「レトロトランスポゾンの挿入型変異」を持っている。
お父さんからもお母さんの両方からその変異型の遺伝子をもらったふくやまっこの型を、「レトロトランスポゾン挿入のホモ接合」といいます。

②ヘテロ型(レトロトランスポゾン挿入変異のヘテロ接合)

ヘテロ型の遺伝子パターン

例えばお母さんがフクさんの子孫。お父さんはフクさんの子孫ではないけど別の場所に違う変異を持っている。それが組み合わされた場合にも福山型が発症します。この福山型のことを「レトロトランスポゾン挿入のヘテロ接合」といいます。

「フクチン遺伝子の違う場所の違う変異」が、検査ではっきりする場合もありますし、わからない場合もあります。

ヘテロ接合型のふくやまっこでは、もう一方の遺伝子の変異の場所によって、重度化したり、症状が軽かったりします。

福山型にはどんな症状がありますか?

ふくやまっこが上手に作れない「フクチン」とよばれるたんぱく質の機能は完全には分かっていません。しかし、フクチンは筋肉どうしの連結を強くするのに役立っているため、フクチンがないことにより筋肉が壊れやすくなり、筋力が弱くなります。また、脳がつくられる段階で、神経の移動がうまくいかなくなり、脳には上手につくれなかった部分が存在します。

医学的な資料では、、多くの子がおすわりでの移動が中心で、立てるようになる子は少ないと書かれています。ただし、実際のふくやまっこでは個人差がとても大きく、中には歩ける子もいます。

また、単語を使ったり、文章を上手につなげてお話する子もいて、小学生になっても個人のペースで発達していきます。しかし、食事、呼吸、循環といった機能にも筋肉が大きく関わっているため、10歳をすぎたら、飲み込み、呼吸や心臓の機能を定期的に調べてあげる必要があります。近年では、命を守るための医療技術や、機能を高めるリハビリも日々進歩しているので、平均寿命は、これまで言われてきた年齢よりも大きくのびてきています。

 

その他のふくやまっこの特徴

ふくやまっこは社会性が高く、人なつこくてニコニコしている子が多いのも特徴です。

上手にお話しできなくても、相手がうれしいかうれしくないか、相手の気持ちを感じるのは上手です。同年代の元気な子のように乱暴な行動をしないこともあって、保育園や学校のお友達には好かれます。

ほっぺたがぷっくり、睫毛が長く、眼がくりっとした子が多いのも特徴の一つです。

診断はどうやって確定されるの?

赤ちゃんのときに「体に力が少なくやわらかい」「脱力している」「首すわりが遅い」などの症状から専門医を紹介され、福山型がわかることが多いようです。
もう少し詳しく書くと、お医者さまたちは

  1. 症状を見る。力の少なさや腱反射の少なさに気付く。
  2. 血液検査で筋肉が壊れることを示す項目(CK値など)が異常に高いことなどから筋肉の病気を疑う。
  3. 脳のCTやMRIで脳の形の異常を確認。
  4. 血液を使った遺伝子検査で確定診断となる。

という流れをふむことが多いようです。

福山型は、原因となる遺伝子異常の場所がはっきりわかっているため、専門機関での血液検査で確定診断ができます。(この検査は保険診療です。)
遺伝子検査ができなかった時代には筋生検(入院・麻酔をして、筋肉組織の一部をとる検査)が行なわれていましたが、診断のためには必ずしも必要ではなく、福山型の最終診断は筋生検からはできません。

★このホームページの医学的な情報は、東京女子医大の先生方にご協力いただき、
 監修していただいております。